今昔庵日記

某大学で臨床研究推進支援業務に従事しています。普段の業務に関連することを書き溜めていきます。

2018年ノーベル生理学・医学賞

2018年10月1日、スウェーデンカロリンスカ研究所ノーベル生理学・医学賞の受賞者を発表しました。がんの免疫療法への貢献を理由として、京都大学本庶佑特別教授が、米国のJ. P. Allison博士と共同受賞しました。

本庶先生が発見したPD-1(Programmed cell death-1)というタンパクや、PD-1をターゲットとしたがん治療薬ニボルマブ(販売名「オプジーボ」)、PD-1のリガンドPD-L1の方をターゲットとしたがん治療薬ペムブロリズマブ(販売名「キイトルーダ」)などが何故がんに効くか、これらの登場によりどのように多くの患者を救ったか、などは、既に多くの報道により見ることができますので、ここで受賞理由の解説はしません。

 

本庶先生とはお会いしたこともないし全く面識はないのですが、20年近く前から尊敬する研究者のお一人として、一方的に認識していました。本庶先生を初めて認識したのは、企業の研究員として新しい研究テーマを考えたいと思い、基礎・臨床、様々な医学系学会の活動を見たり実際に参加したりして、薬の種となりそうな研究を探していたころのことでした。日本免疫学会という、基礎系ではありますがアレルギー疾患や膠原病など、多くの人を苦しめている疾患の原因を奥深く研究している学会もその一つでした。

その日本免疫学会は当時(今も続いているかどうか存じ上げないので)会員向けにニュースレターという会報を配布していて、時期が経てば会員でなくてもウェブ上で読むことができるようになっていました。2000年のニュースレターと、そこからスピンオフしてウェブ上で繰り広げられた「独創的研究とは」という論争がとても心に残っていて、今でも読み返すことがあります。ウェブ上に派生したきっかけが、当時京都大学教授の本庶先生から提示された「独創的研究とは何か」という発言でした。ニュースレターに掲載された一つの意見に対して疑問を呈し、議論の方向性を整理されたうえで、本庶先生ご自身の研究哲学を明確にお示しになっています。とりわけ、末尾に挙げられている「6つのC」という言葉が大好きで、研究者として生きる者や研究者を志す者はぜひ一度、読んでほしいと思っています。

勝手ながら引用させていただきます。

 

好奇心 (curiosity) を大切にして、勇気(courage)を持って困難な問題に挑戦すること(challenge)。必ずできるという自信(confidence)を持って、全精力を集中(concentration)し、そして諦めずに継続すること(continuation)。その中でも最も重要なのは、curiosity, challenge, continuation の3Cである。これが凡人でも優れた独創的と言われる研究を仕上げるための要素であると私は考える。

 

同じご意見の中で本庶先生は、「“なんだろう?”“不思議だな?”という自らの問を心行くまで追求することが、研究者の楽しみではなかろうか。」と述べておられます。そこから始まった一つの研究が、治療薬の開発へとつながり多くの患者を救い、ノーベル賞受賞へとつながりました。本庶先生、受賞おめでとうございます。

2018年10月2日